被害はさらに拡大する・・・

タイトルに挙げたのは、昨夜(って言っても、実は数時間前)のラジオ放送で、番組の途中に流れる時事ニュースを聞いていて出てきた表現です。

正確には「被害はさらに拡大する模様です」だったと思うのですが、どうもスマトラ島沖でマグニチュード7クラスの大きな地震があったようです。

この地震に関して色々と言えることがあるはずなので(例えば、数年前にも同じような場所で大きな地震があり、すごい被害が出たとか)そういうことについて書いてみるというのももちろん可能ですが、言葉には関心があるので少し別の角度から思ったことを書かせていただきます。

もちろん、地震については状況なども気になりますし、被害がそれほど大きくないことを切に祈っています。

以下、本題です

僕の曖昧な記憶では、地震以外の他の災害時にもメディアを通じて、恐らくこのような表現は多用されていたように思います。

実際に「被害はさらに拡大する」と「被害は今後もさらに拡大する」ググってみると色々と出てきました。

そこで、気になるポイントですが、山火事の場合はともかくとして、地震の際に聞かれる「被害は(今後も)拡大する・・・」という表現はどうもしっくりとこないような気がします。

というのも、この場合の「被害」という言葉の使われ方が日常的に使われる「被害」という言葉のニュアンスと異なるのではないか、と思われるからです。

普段使う言い方だと「あいつが余計なこと言ったせいで、俺にまで被害がきたよ。」みたいな表現になると思います。

この時の被害というのは、既に現実世界において確定していることを指すはずです。

そこで、広辞苑で調べてみると・・・

ひ–がい【被害】
損害をこうむること。危害を受けること。また、受けた損害。「ーをこうむる」
広辞苑 第五版

というようにあり、やはり、上記において述べた既に現実世界において確定していることを指す、という認識でも大きな誤りはないように思います。

しかし、地震のような災害時に聞かれる「被害は(今後も)拡大する・・・」というからは、「被害」という言葉がどうも被害状況などをメディアを通じて見聞きする認識主体が得ることの出来る(あるいは既に得ている)被害に関する状況、という意味で用いられているのではないか、という気がします。

例えば、「今回の津波での死傷者は現在○人。しかし、○○からの情報は現在入ってきておらず、被害は今後も拡大するものと思われます。」という表現から、僕たち情報の受信者は「死傷者○人」という被害状況を認識することが出来るわけですが、実際に現地ではそうした報道がなされた段階で既に死傷者の数はほぼ確定しており(すでに数えられている、という意味ではありません)それ以上には増えない、ということも十分あり得ると思います。

このような時には、既に現実世界において確定している被害は、今後拡大することはなく、現地と情報の伝達という点で時差のある認識主体が得る情報という枠内での「被害」が拡大するだけです。

つまり、この時の「被害」という言葉が表すことは現実世界での事態のあり方ではなく認識主体が得た事態に関する情報ということになります。

誤解を恐れずに言うと客観的情報なのか主観的情報なのかの違いということになるかとも思われます。

なぜ、このような違いのある二つの「被害」があるのか、少し気になるところです。