科学哲学の冒険
科学哲学の冒険 サイエンスの目的と方法をさぐる (NHKブックス)
- 作者: 戸田山和久
- 出版社/メーカー: NHK出版
- 発売日: 2005/01/27
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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最近注目している本(でも、まだちっとも読んでない)である『論理学をつくる』の著者が書いた本ということで読んでみました。
文体が先生と学生の会話調なのに、その割には学生のレベルが結構高くて驚きでした。
読む分にはスピードが落とせるのでいいのですが、会話のテンポを維持しつつあれだけの内容が話せる学生って結構優秀だなぁということが読み始めた頃には気になっていたのですが、内容的に分かりやすく充実していたので満足でした。
著者は、科学的実在論という立場をなんとか擁護したいようですが、恐らく、多くの人が抱いているような科学観(僕もこのような考え方をしていました)なのに、難しいものなんだなぁ、哲学って面白いこと考えているなぁというのが全体的な感想。
で、少し気になる考え方が紹介されていたので、以下では少しそのことについて言及してみます。
一つは物理学者のエルンスト・マッハという人の考え方で、面白かったのでちょっと引用させてもらいます。
世界を構成するのはモノではない。色、音、熱、などの感覚的要素のみである。常識的にはモノがまずあって、そこから反射した光が目に入って、色や形の知覚が生じる、と捉えられるのだけれど、マッハはそのようには考えない。われわれがいちばん直接にアクセスできるのは、色や形や音などの感覚データではないか。これがわれわれにとって最も直接に「ある」と言えるものだ。(p.61)
この考え方も、科学的実在論という常識的な考え方とは異なるのですが、「モノがある→認識出来る」という「客観→主観」という方向性ではなく「認識出来る→モノがある」という「主観→客観」のような考え方、つまり、主観が客観に先行するというコトになっているところがなかなか面白いなと。
でも、モノだけが全てというわけでもないわけだし、数学とかだとどうなるのかなぁ、なんて考えていたら数学の認知的基礎付けというのを思い出して、ちょっと悩んでいます。
でも、面白いのは間違いない・・・はず。
で、この本のなかで扱われていた面白い考え方その2はというと、『いかにして物理法則は嘘をつくか』という本の著者であるナンシー・カートライトの理論。
彼女の理論の面白いところは、電子のような科学的に観察されうる(と常識的に考えられている)対象物については実在論の立場にあり、また科学に関する理論についてもボイル・シャルルの法則のように実際に観測可能な現象論的法則についても存在を認めているのに、こうした現象論的法則を支えるための基本法則というものは誤っているんじゃないの、と考えて見ているところですね。
深入りすると良くないのですが、言語学もそういうのってあるんですかね?
観測可能な各個別言語のなかで個別に生じる面白現象を説明する理論(というか説明)みたいなのが現象論的法則に当てはまるのかな?
で、UGみたいなのは現象論的法則を支える基本法則、つまり物理学でいうところの万有引力の法則みたいなものになるのかな?
だとしたら、『いかにして生成文法は嘘をつくか』ってタイトルの本が出てしまいそう・・・。
まぁ、言語に関する研究でも、物理法則みたいに理想化やモデル化を経て理論構築している場合がおおいので、『いかにして生成文法は〜』とか『いかにして認知言語学は〜』みたいな本が出ても、それは生成文法や認知言語学を言語学的に批判しているというより、哲学的あるいは科学哲学的に批判していることにしかならないのでしょうね。
というか、万有引力を批判するのって結構現実的には大変なのかもと思ってしまいます。
これまでの物理学の発展の歴史とかもありますしね。
といっても、あまり物理学を知らないのですが・・・。